【電験2種過去問解説:電力・管理<R6 問2>】油入変圧器の内部故障検出に用いられている保護リレーに関する論説問題

電験

問題

油入変圧器の内部故障検出に用いられている保護リレーに関して,次の各問にそれぞれ合計 100 字程度以内で答えよ。

(1) 電気式リレーである比率差動リレー方式において,励磁突入電流による誤動作防止対策を二つ挙げ,それぞれ概要を述べよ。

(2) 機械式リレー(装置を含む)を二つ挙げ,それぞれ動作の概要を述べよ。

(3) 機械式リレー(装置を含む)において,地震による誤動作が考えられる場合,誤動作防止対策や誤動作した場合に運用面の影響を小さくする対策を二つ挙げ,それぞれ概要を述べよ。

解答のポイント

① 比率差動継電器
比率差動継電器は、変圧器内部の相間短絡事故などを検出する継電器です。変圧器で最も多いのは巻線間短絡事故ですが、一般の過電流リレーや地絡リレーでの検出が困難なため、下図に示すような比率差動継電器が用いられます。

a相の変圧器入力側の電流を \(I_{a1}\) [A]、変圧器出力側の電流を \(I_{a2}\) [A] とし、それぞれをCTにより \(i_{a1}\) [A] および \(i_{a2}\) [A] に変成して取得し、それらの合成電流を比率差動継電器に入力します。このとき、健全時には \(i_{a1} − i_{a2} = 0\) A となるように、変圧器の巻数比に合わせてCTの変成比を決定します。
例えばa-b相間の短絡事故が発生すると、変圧器の実質的な巻数比が変わることにより \(i_{a1} − i_{a2} \neq 0\) A となり、\(i_{a1} − i_{a2}\) が比率差動継電器の動作値を超えたとき変圧器が遮断されます。
しかし、一次側と二次側CTの違いや誤差等により、厳密に動作コイルに流れる電流を零とすることができないため、抑制コイルを設けています。また、抑制コイルには外部事故が発生した際等の誤動作防止の役割もあります。

電験王より引用

② 機械的保護装置
事故発生時には、変圧器内部の油圧変化、ガス圧変化、油流変化などが起こります。代表的な保護装置には以下の継電器があります。

1) ブッフホルツ継電器
変圧器本体とコンサベータ間の配管に設置され、変圧器内部故障に伴い発生するガスあるいは油流を検出します。つまり、軽微な故障では、継電器の上部にガスがたまり、浮子の接点がONとなり軽故障警報を発します。また、大きな故障では、油流によって別の浮子が押し下げられて接点がONし、重故障警報を発します。

2) 衝撃圧力継電器
変圧器本体の絶縁油に連通するように取り付けられ、「変圧器内部の圧力上昇で流速を得る部分」と「流速を電気信号に変換する部分」とから構成されます。変圧器内部で故障が発生した場合、発生したガスによって絶縁油内に圧力波が伝わり、この圧力波によって継電器の作動油が流れ、フロートを押し上げ、マイクロスイッチを動作させます。マイクロスイッチの動作により変圧器故障の警報を発します。

3) 温度継電器
変圧器巻線にサーチコイルを取り付け、巻線温度を測定し、設定温度に達したら警報を発します。

※変圧器内部で短絡故障が発生すると、比率差動継電器が動作し、電源の遮断器を開放すると同時に、ブッフホルツ継電器、衝撃圧力継電器が動作し、警報を発します。また、コンサベータ内の圧力が上昇するので放圧弁が動作し、圧力上昇を抑えます。放圧弁が動作した場合も動作を知らせる警報を発します。このように数種類の継電器が事故を検出します。

③ 励磁突入電流
変圧器を遮断器投入によって電路に接続すると、投入時の電圧の位相によっては定格電流の数倍から十数倍の大きな励磁電流が流れることがあり、これを励磁突入電流といいます。励磁突入電流は、変圧器の保護リレーやヒューズの誤動作の原因になる場合があります。


DAIHEN 電力機器Q&A 基礎知識より引用

励磁突入電流は、電源の電圧波形の最大位置でしゃ断器が投入された場合は発生しませんが、電圧波形が0位置で投入された場合、最大値に達します。
供給電圧と鉄心磁束φとの間に90°の位相差があるため、図のように供給電圧が1/4サイクル後最大値に達した後は小さくなりますが、磁束は電圧と共に減少せずに増加し続け、供給電圧の1/2サイクル後ほぼ定常時の2倍に達し、さらに残留磁束φrの位相が合う場合は磁束は2φm+φrになります。 この結果、鉄心の磁束が飽和し、変圧器の励磁インピーダンスの値が激減して大きな励磁電流となります。

また、励磁突入電流の特徴として、
・第二調波成分を多く含む。
・残留磁束と同極性の電圧が位相差がなく印加された時最大となる。
・励磁突入電流の大きさは最大で定格の10倍以上となることがある。
・励磁突入電流の継続時間は小容量で数秒程度、大容量では10秒以上にもなる。
などがあるので、比率差動継電器においても、
・変圧器投入後一定時間継電器をロックする方法
・第二調波抑制付比率差動継電器を用いる方法

などの対策がとられます。

解答 (試験センター解答例)

(1) 比率差動リレー方式における励磁突入電流による誤動作防止対策二つ
以下の誤動作防止対策から二つ記載されていればよい。
・磁気飽和により第二調波成分が多く含有することを利用した抑制コイルを付加した高調波抑制付きリレーにより誤動作を防止させる方法。
・変圧器投入後、一定時間リレーの感度を低下させておき誤動作を防止させる方法。
・変圧器投入後、一定時間リレーのトリップ回路をロックすることで誤動作を防止させる方法。

(2) 機械式リレー(装置を含む)を二つ挙げ,それぞれ動作の概要
以下の機械式リレー (装置含む) から二つ記載されていればよい。
・衝撃圧力 (ガス圧・油圧) リレー:内部故障時の分解ガスによって変圧器タンク内のガス又は油の圧力が上昇した時に動作する。
・ブッフホルツ (ピトー) リレー:内部故障時の分解ガス、蒸気の発生、油流の変化を検出し動作する。
・ガス検出リレー:ガスが一定量溜まり、油面が下がると動作する。
・放圧装置:内部故障に伴う内部圧力上昇に対して、タンクの変形や破壊を防止する装置。

(3) 機械式リレーにおいて,地震による誤動作防止対策や誤動作した場合に運用面の影響を小さくする対策二つ
以下の対策から二つ記載されていればよい。(機械式リレーについては警報用としたり、複数のリレーを組み合わせて冗長化するのが一般的。)
・機械式リレー (装置含む) をトリップ用ではなく警報用として用いる。
・一つの機械式リレーのみを用いて変圧器を停止させるのではなく、同種機械式リレーの複数又は地震計と組み合わせて変圧器の停止を判断する。
・地震に対して、接点部にピトー管やベロー構造等を設け、誤動作しない (しにくい) 設計のリレーを採用する。
・地震により誤動作し漏油などが発生した場合でも、その後変圧器の運用継続可能な自動復帰形放圧装置を採用する。

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