問題
図のような \(P = 10\) [MW] (遅れ力率 \(0.8\)) の負荷が接続された変電所において、以下の問に答えよ。
ただし、一次巻線電圧は \(150\) [kV]、容量、%インピーダンス及び使用タップの変圧器諸元は次の通りとし、変圧器の有効電力潮流による電圧降下分は無視できるものとする。
また、計算においては、負荷電流は二次母線電圧が \(77\) [kV] のとき \(10\) [MW] となる電流で一定とみなしてよいものとし、単位法における電圧降下の近似式を用いてもよいものとする。
・容量
一次側 \(100\) [MV・A]
二次側 \(100\) [MV・A]
三次側 \(30\) [MV・A]
・%インピーダンス
一次-二次間 \(X_{12} = 16\) [%] (\(100\) [MV・A] ベース)
一次-三次間 \(X_{31} = 8\) [%] (\(100\) [MV・A] ベース)
二次-三次間 \(X_{23} = 3\) [%] (\(30\) [MV・A] ベース)
・使用タップ
一次側 \(154\) [kV]
二次側 \(77\) [kV]
三次側 \(22\) [kV]

(1) 各巻線のインピーダンス [%] (\(100\) [MV・A] ベース) を求めよ。
(2) 各巻線のインピーダンス [p.u.] (\(100\) [MV・A] ベース) を求めよ。
(3) 三次側に何も接続しないときの二次母線電圧 [kV] を求めよ。
(4) 三次側にコンデンサ \(30\) [Mvar] を接続したときの二次母線電圧 [kV] を求めよ。
解答のポイント
三相3巻線変圧器
変電所で三相3巻線変圧器を使用する場合は、一次側・二次側をそれぞれ電圧の異なる母線系統とし、三次側を近隣負荷への配電系統または調相設備への接続とすることが多いです。

変電所は大規模な送電系統の電圧階級が変わる節目となる地点なので、一次側・二次側ともに母線、つまり、電源が接続されているようなものとなり、上図のように表されます。
パーセントインピーダンスの基準容量換算

三相交流回路のパーセントインピーダンスの重要公式より、
\(\%Z = \displaystyle\frac{P_nZ}{{V_n}^2} × 100\) [%]
⇓ \(\%Z\) は \(P_n\) に比例
\(\%{Z_A}’ = \displaystyle\frac{P_B}{P_A}\%Z_A\) [%]
つまり、基準容量を \(P_{BASE}\)、自己容量を \(P_{OWN}\)、基準容量換算前のパーセントインピーダンスを \(\%Z\) とすれば、基準容量換算後のパーセントインピーダンス \(\%Z’\) は以下のように表される。
\(\%Z’ = \displaystyle\frac{P_{BASE}}{P_{OWN}}\%Z\) [%]
※ パーセントインピーダンスの基準容量を変換する際は、有効電力 [W] (もしくは負荷容量 [W]) ではなく、変圧器容量 [V・A] を使用することに注意。
各パーセントインピーダンスの導出
三相3巻線変圧器のパーセントインピーダンスが、一次-二次間、二次-三次間、三次-一次間のパーセントインピーダンスとして与えれている場合は、一次側、二次側、三次側のそれぞれの巻線のパーセントインピーダンスを下記のように計算することができます。

\(\color{blue}{\%Z_{12}} = \%Z_1 + \%Z_2\) … ①
\(\color{blue}{\%Z_{23}} = \%Z_2 + \%Z_3\) … ②
\(\color{blue}{\%Z_{31}} = \%Z_3 + \%Z_1\) … ③
①+②+③より、
\(\color{blue}{\%Z_{12} + \%Z_{23} + \%Z_{31}} = 2(\%Z_1 + \%Z_2 + \%Z_3)\)
\(\displaystyle\frac{\color{blue}{\%Z_{12} + \%Z_{23} + \%Z_{31}}}{2} = \%Z_1 + \%Z_2 + \%Z_3\) … ④
④ - ① or ② or ③ より、\(\%Z_1\)、\(\%Z_2\)、\(\%Z_3\) がそれぞれ導出できます。
パーセントインピーダンスと単位法

【パーセントインピーダンス】
\(\%Z = \displaystyle\frac{ZI_n}{E_n} × 100\) [%] (定義)
\(= \displaystyle\frac{P_nZ}{{E_n}^2} × 100\) [%]
【単位法】
\(Z\)[p.u.] \(= \displaystyle\frac{Z[Ω]I_n}{E_n}\) (定義)
\(= \displaystyle\frac{P_nZ[Ω]}{{E_n}^2}\)
\(P_n\) [V・A]:定格容量
単位法による電圧降下の関係式

\(\dot{E_p} = \dot{E_s} + jX\dot{I}\)
定格相電圧を \(E_n\) [V] とすると、
\(\displaystyle\frac{\dot{E_p}}{E_n} = \displaystyle\frac{\dot{E_s}}{E_n} + j\displaystyle\frac{X\dot{I}}{E_n}\)
\(= \displaystyle\frac{\dot{E_s}}{E_n} + j\displaystyle\frac{XI_n}{E_n}\displaystyle\frac{\dot{I}}{I_n}\)
\(= \dot{E_s}\)[p.u.] \(+ jX\)[p.u.]\(\dot{I}\)[p.u.]
インピーダンスのオーム法から単位法への換算

\(Z\)[p.u.] \(=\displaystyle\frac{\sqrt{3}Z[Ω]I_n}{V_n}\) (定義)
\(=\displaystyle\frac{\sqrt{3}Z[Ω]V_nI_n}{{V_n}^2}\)
\(=\displaystyle\frac{P_nZ[Ω]}{{V_n}^2}\) (重要公式)
\(P_n\) [V・A]:定格容量
単位法による複素電力の関係式

\(\dot{S} = 3\dot{E}\overline{\dot{I}} = P + jQ\)
\(\displaystyle\frac{3\dot{E}\overline{\dot{I}}}{3E_nI_n} = \displaystyle\frac{P}{3E_nI_n} + j\displaystyle\frac{Q}{3E_nI_n}\)
\(\displaystyle\frac{\dot{E}}{E_n}\displaystyle\frac{\overline{\dot{I}}}{I_n} = \displaystyle\frac{P}{S_n} + j\displaystyle\frac{Q}{S_n}\)
\(\dot{E}\overline{\dot{I}} = P + jQ\) [p.u.]
↑
係数に3がつかないことに注意
\(S_n\) [V・A]:基準容量
\(E_n\) [V]:定格相電圧
\(I_n\) [A]:定格電流
\(P\) [W]:有効電力
\(Q\) [var]:無効電力
単位法における電圧降下の近似式

\(δ\) が十分に小さいとき、
\(E_p\) \(\unicode{x2252}\) \(E_s + XI\sin θ\)
\(E_p − E_s = XI\sin θ\)
\(ΔE = XI\sin θ\)
\(= XI_n\displaystyle\frac{E_sI\sin θ}{E_sI_n}\)
\(\displaystyle\frac{ΔE}{E_n} = \displaystyle\frac{XI_n}{E_n}\displaystyle\frac{Q}{S_n}\)
\(ΔE = XQ\) [p.u.]
\(E_p\) [V]:一次相電圧
\(E_s\) [V]:二次相電圧
\(ΔE\) [V] → [p.u.]:一次相電圧 \(E_p\) [V] から二次相電圧 \(E_s\) [V] にかけての電圧降下
\(S_n\) [V・A]:基準容量
\(E_n\) [V]:定格相電圧
\(I_n\) [A]:定格電流
\(P\) [W] → [p.u.]:有効電力
\(Q\) [var] → [p.u.]:無効電力
三相3巻線変圧器を経る電圧降下

単位法における電圧降下の近似式を使用可能な場合、
\(ΔE = Z_1(Q_L − Q_C) + Z_2Q_L \) (すべて単位は [p.u.])
\(ΔE\) [V]:一次相電圧 \(E_p\) [V] から二次相電圧 \(E_s\) [V] にかけての電圧降下
\(Z_1\) [p.u.]:一次側巻線インピーダンス
\(Z_2\) [p.u.]:二次側巻線インピーダンス
\(Q_L\) [p.u.]:負荷の無効電力
\(Q_C\) [p.u.]:コンデンサの無効電力
- 点a-b間には、負荷の無効電力 \(Q_L\) [p.u.] に加えて、コンデンサの無効電力 \(Q_C\) [p.u.] が流れます。(※)
- 点b-c間には、負荷の無効電力 \(Q_L\) [p.u.] のみが流れます。
※ 遅れ無効電力を正としているため、コンデンサの進み無効電力の符号は負として取り扱う必要があります。このことから、コンデンサの無効電力により電圧降下が緩和されることが定量的に分かります。
Δ-Y変換とY-Δ変換

【Δ-Y変換】
\(R_A = \displaystyle\frac{r_Ar_B}{r_A + r_B + r_C}\) \(R_B = \displaystyle\frac{r_Br_C}{r_A + r_B + r_C}\) \(R_C = \displaystyle\frac{r_Cr_A}{r_A + r_B + r_C}\)
【Y-Δ変換】
\(r_A = \displaystyle\frac{R_AR_B + R_BR_C + R_CR_A}{R_B}\) \(r_B = \displaystyle\frac{R_AR_B + R_BR_C + R_CR_A}{R_C}\)
\(r_C = \displaystyle\frac{R_AR_B + R_BR_C + R_CR_A}{R_A}\)
解答
(1) 各巻線のインピーダンス [%] (\(100\) [MV・A] ベース)

\(\%X_{23}\) を \(100\) [MV・A] 換算すると、
\(\%{X_{23}}’ = \displaystyle\frac{100}{30}\%X_{23}\)
\(= \displaystyle\frac{100}{30} × 3.0\)
\(= 10.0\) [%]

\(\%X_{12} = \%X_1 + \%X_2 = 16.0\) … ①
\(\%X_{31} = \%X_3 + \%X_1 = 8.0\) … ②
\(\%{X_{23}}’ = \%X_2 + \%X_3 = 10.0\) … ③
①+②+③より、
\(2(\%X_1 + \%X_2 + \%X_3) = 34.0\)
\(\%X_1 + \%X_2 + \%X_3 = 17.0\) … ④
④ - ③より、
\(\%X_1 = 7.0\) [%]
④ - ②より、
\(\%X_2 = 9.0\) [%]
④ - ①より、
\(\%X_3 = 1.0\) [%]
(2) 各巻線のインピーダンス [p.u.] (\(100\) [MV・A] ベース)
(1) より、
\(X_1 = 0.07\) [p.u.]
\(X_2 = 0.09\) [p.u.]
\(X_3 = 0.01\) [p.u.]
(3) 三次側に何も接続しないときの二次母線電圧 [kV]

負荷の無効電力 \(Q\) [Mvar] は、
\(Q = P\tan θ\)
\(= P\displaystyle\frac{\sin θ}{\cos θ}\)
\(= P\displaystyle\frac{\sqrt{1 − \cos^2 θ}}{\cos θ}\)
\(= 10 × \displaystyle\frac{\sqrt{1 − 0.8^2}}{0.8}\)
\(= 7.5\) [Mvar]

\(V_1\) 及び \(P + jQ\) を単位法で表すと、
\(V_1 = \displaystyle\frac{150}{154}\)
\(\unicode{x2252}\) \(0.97403\) [p.u.]
\(P + jQ = \displaystyle\frac{10 + j7.5}{100}\)
\(= 0.1 + j0.075\) [p.u.]

\(ΔV = XQ\) [p.u.] の関係から、
\(V_2 = V_1 − (X_1 + X_2)Q\)
\(= 0.97403 − (0.07 + 0.09) × 0.075\)
\(= 0.96203\) [p.u.]
となるので、二次母線電圧 \(V_2\) [kV] は、
\(V_2 = 0.96203 × 77\)
\(\unicode{x2252}\) \(74.1\) [kV]
(4) 三次側にコンデンサ \(30\) [Mvar] を接続したときの二次母線電圧 [kV]

(3) より、\(V_1\) 及び \(P + jQ\) は、
\(V_1\) \(\unicode{x2252}\) \(0.97403\) [p.u.]
\(P + jQ = 0.1 + j0.075\) [p.u.]
また、コンデンサの無効電力 \(Q_C\)は、
\(Q_C = \displaystyle\frac{30}{100}\)
\(= 0.3\) [p.u.]

単位法における電圧降下の近似式より、
\(V_2 = V_1 − X_1(Q − Q_C) − X_2Q\)
\(= 0.97403 − 0.07 × (0.075 − 0.3) − 0.09 × 0.075\)
\(= 0.98303\) [p.u.]
となるので、二次母線電圧 \(V_2\) [kV] は、
\(V_2 = 0.98303 × 77\)
\(\unicode{x2252}\) \(75.7\) [kV]


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