問題
太陽光発電の系統連系量が増加すると,日射量の多い昼間帯に逆潮流が流れることによって,電力系統の電圧が上昇する。電力系統への分散型電源の大量連系時の課題について,次の問に答えよ。
(1) 特別高圧系統に連系する変電所側において,系統電圧上昇を抑えるために用いられる調相設備を二つ挙げ,それぞれについて原理及び長所・短所を含めて 80 字程度で述べよ。
(2) 太陽光発電等の分散型電源の系統への連系時に求められる,事故時運転継続の要件について,対象とする事故事象を一つ挙げよ。さらに,その運転継続の必要性を 80 字程度で述べよ。
解答のポイント
① 調相設備の種類
調相設備とは、受電端電圧を一定に保つために、無効電力を吸収して力率を改善する設備であり、主に次の設備があります。
・電力用コンデンサ
・分路リアクトル
・同期調相機
・SVC
② 電力用コンデンサの原理と特徴
電力用コンデンサは電線路に対して並列に接続されるコンデンサのことで、進み無効電力を消費します。重負荷時に力率を改善し、系統の電圧降下や電力損失を軽減することができます。

なお、電力用コンデンサには次の特徴があります。
・簡素な構造のため、設置費と保守費がともに比較的安価
・可動部分がなく保守が容易で、信頼性が高い
・機器単位で電線路に投入するため、無効電力の調整が段階的
・進み無効電力の消費量を増加する調整のみ可能
③ 分路リアクトルの原理と特徴
分路リアクトルは電線路に対して並列に接続されるリアクトルのことで、遅れ無効電力を消費します。夜間・軽負荷時に力率を改善し、受電端電圧上昇を抑制することができます。

なお、分路リアクトルには次の特徴があります。
・簡素な構造のため、設置費と保守費がともに比較的安価
・可動部分がなく保守が容易で、信頼性が高い
・機器単位で電線路に投入するため、無効電力の調整が段階的
・遅れ無効電力の消費量を増加する調整のみ可能
④ 同期調相機の原理と特徴
同期調相機は電線路に接続した無負荷の同期電動機のことで、界磁電流の大きさを調整することにより同期調相機に流れ込む電機子電流の位相を調整します。

ここで、界磁電流を増やすと進み力率になり、界磁電流を減らすと遅れ力率になります。これは、電機子電流と界磁電流の関係を示した下図のV曲線から理解することができます。

なお、同期調相機には次の特徴があります。
・回転機であるため、設置費と保守費がともに高価
・可動部分が多く、保守が煩雑
・界磁電流で電機子電流の位相を調整するため、無効電力の調整が連続的
・進み無効電力から遅れ無効電力まで調整可能
⑤ SVCの原理と特徴
SVCは (Static Var Compensator) は静止型無効電力補償装置ともいい、進み無効電力から遅れ無効電力まで連続的に制御できるものです。SVCには大別してTCR方式、TSC方式およびSTATCOMの3種類があり、それぞれ主にコンデンサ、リアクトルおよび半導体デバイスで構成されます。

1) TCR方式
TCR方式 (Thyristor Controlled Reactor) は、下図のようにリアクトルと双方向サイリスタを直列接続したものとコンデンサとを組み合わせたものとなります。
TCR方式では、双方向サイリスタの点弧位相を調整することでリアクトルによる遅れ無効電力の制御を行うことに加え、コンデンサとの組み合わせで全体として進み無効電力から遅れ無効電力までの消費量を調整しています。

TCR方式には次の特徴があります。
・サイリスタが高価であるため設置費は高価であるものの、保守費は回転機よりは安価
・サイリスタの点弧位相を制御するので、無効電力の調整が連続的
・進み無効電力から遅れ無効電力まで調整可能
2) TSC方式
TSC方式 (Thyristor Switched Capacitor) は、下図のようにコンデンサと双方向サイリスタを直列接続したものとリアクトルとを組み合わせたものとなります。
制御方法としては、コンデンサへの突入電流が0Aとなるように、電圧が最大もしくは最小となる位相でのみ双方向サイリスタを点弧させます。この制約があることから、TSC方式は電力用コンデンサと同様にコンデンサ単位での段階的な無効電力調整となります。
加えて、リアクトルがあることで全体として進み無効電力から遅れ無効電力までの消費量を調整しています。

TSC方式には次の特徴があります。
・サイリスタが高価であるため設置費は高価であるものの、保守費は回転機より安価
・コンデンサへの突入電力が0Aとなるようにサイリスタの点弧位相を制御するので、無効電力の調整が段階的
・進み無効電力から遅れ無効電力まで調整可能
3) STATCOM
STATCOM (Static Synchronous Compensator) は、自励式SVCとも呼ばれ、下図のように自励式インバータとコンデンサを組み合わせたものとなります。
制御方法としては、自励式インバータが系統電圧と同相の電圧を出力し、それと系統電圧との電位差および変圧器のリアクタンスから生じる無効電力を利用します。無効電力の正負は自励式インバータの出力電圧の大きさで変わるため、リアクトルが無くても進み無効電力から遅れ無効電力までの広い範囲での調整が可能です。

STATCOMには次の特徴があります。
・自励式インバータが高価であるため設置費は高くなる傾向にあるものの、保守費は回転機より安価
・自励式インバータの電圧の大きさにより無効電力の正負を制御するので、無効電力の調整が連続的
・進み無効電力から遅れ無効電力まで調整可能
⑤ 設置目的に応じた調相設備の選定
送電される電力のうち無効電力が大きいと、送電損失が増えたり系統電圧の維持が困難になったりするなど、様々な障害が発生します。そのため、調相設備の設置と制御が必要になりますが、概ね次の場合わけにより必要な調相設備を選定します。
無効電力の調整が 段階的で支障ない |
無効電力の調整が 連続的である必要がある |
|
進み無効電力の 制御が必要 |
・電力用コンデンサ | ・同期調相機 ・TCR方式 ・STATCOM |
遅れ無効電力の 制御が必要 |
・分路リアクトル | |
進み無効電力と 遅れ無効電力の 制御が必要 |
・電力用コンデンサと 分路リアクトルの組合せ ・TSC方式 |
⑥ 電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン (抜粋)
第2章 連系に必要な技術要件
第5節 特別高圧電線路との連系
5. 不要解列の防止
(1) 保護協調
発電設備の故障又は系統の事故時に、事故範囲の局限化等を行い、需要家への電気の安定供給を維持していくためには、安全確保上の対応を講じることは前提として、
① 連系された系統以外の事故時には、原則として発電等設備は解列されないこと
② 連系された系統から発電等設備が解列される場合には、逆電力リレー、不足電力リレー等による解列を自動再閉路時間よ短い時限、かつ、過渡的な電力変動による当該発電等設備の不要な遮断を回避できる時限で行うこと
が適切である。
(2) 事故時運転継続
発電等設備が、系統の事故による広範囲の瞬時電圧低下や瞬時的な周波数の変化等により一斉に停止又は解列すると、系統全体の電圧や周波数の維持に大きな影響を与える可能性があるため、そのような場合にも発電等設備は運転を継続するものとする。
(3) 電圧・周波数変動による不要解列の防止
作業停止や需要増加などに伴い、電圧・周波数変動が継続する状況においても、発電等設備の不要解列による系統電圧・周波数維持への影響を防止するため、一定の電圧・周波数変動範囲内においては、発電等設備は運転を継続するものとする。
解答 (試験センター解答例)
(1) 系統電圧上昇抑制に有効な調相設備を二つとそれぞれの原理及び長所・短所
系統電圧上昇の抑制が目的ですので、電力用コンデンサ以外の設備が有効となります。
〔分路リアクトル (ShR) 〕
リアクトルにより系統から遅れ電流を取ることによって,無効電力を吸収し電圧を低下させる。電圧調整が段階的だが,設備コストが比較的安価で保守が容易である。
〔静止型無効電力補償装置 (SVC) 〕
サイリスタ点弧角を位相制御することでリアクトルに流れる電流を連続的に変化させて,遅れの無効電力を連続的かつ高速に調整できる。設備コストが比較的高い。
〔自励式静止型無効電力補償装置 (自励式 SVC,STATCOM) 〕
自己消弧素子を用いた自励式変換器により,無効電力を発生し,又は吸収し,進み・遅れ双方の無効電力を連続的かつ高速に調整できる。設備コストが比較的高い。
〔同期調相機 (RC) 〕
励磁調整によって進み又は遅れの無効電力を連続的に発生できる。設備コストが高価で,回転機のため保守が大変だが電圧調整を連続的かつ高速に調整できる。
(2) 事故時運転継続の対象とする事故事象一つとその運転継続の必要性
事故事象:系統事故による広範囲の瞬時電圧低下又は系統事故による瞬時的な周波数の変化
必要性:分散型電源が一斉に停止又は解列すると、系統全体の電圧や周波数の維持に大きな影響を与える可能性があり、不要解列を防止するために事故時運転継続が必要である。


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