問題
電力用CVケーブル (架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル) の水トリーに関する次の問に答えよ。
(1) 水トリーの発生要因、特徴について簡潔に述べよ。
(2) 以下に示すCVケーブルの水トリー劣化診断技術の中から二つ選び、その概要について簡潔に述べよ。
a. 損失電流法 b. 残留電荷法 c. 耐電圧法 d. 直流漏れ電流測定
解答のポイント
ケーブルの種類
① OFケーブル

- 絶縁油と絶縁紙で絶縁
- 金属シースで通信線障害を防止
- 最高許容温度が80℃
- 給油設備が必要
② CVケーブル

- 架橋ポリエチレンで絶縁
- 金属シースで通信線障害を防止
- 最高許容温度が90℃
- 給油設備が不要
- 軽量
- 水トリー現象が発生
CVケーブルの劣化と水トリー
【CVケーブルの劣化要因】

- 熱、温度
- 水分
- 紫外線 (日光)
- 電界
- 部分放電
【水トリー】

CVケーブルは絶縁体中に水分が侵入すると、局所的な電界集中との相乗効果により、通常であれば劣化進行が遅い小さい電界下でも劣化が進行しやすくなります。劣化は水分を起点に発生・進行し、トリー状 (tree状、樹状) で白濁色の水トリーが形成されます。この水トリーは、上図のように発生部位によって、①内部水トリー、②外部水トリー、③ボウタイ状水トリーと名称が変わります。
※ 水分が作用せず、部分放電のみの進行によるトリーの形成を電気トリーとして水トリーと区別します。電気トリーの発生は水分が原因ではなく、進行が水トリーほど顕著でないため、CVケーブルの劣化の主要因とはなりません。
水トリーの劣化診断方法
水トリーの劣化診断方法は、次の3つに分類することができます。
- 直流電源のみを使用する方法
⇒ 直流漏れ電流測定 - 交流電源のみを使用する方法
⇒ 交流損失電流法、耐電圧法 - 直流電源・交流電源の両方を使用する方法
⇒ 残留電荷法
① 直流漏れ電流測定

導体とシース間に直流電圧を印加して、流れる直流漏れ電流の時間的変化から絶縁状態を調査する方法を直流漏れ電流測定といいます。
正常なCVケーブルは、導体とシース間が理想的なコンデンサに近いため、直流電流は充電電流として時間経過とともに減衰します。一方、水トリーのあるCVケーブルは、充電電流とは別に漏れ電流が重畳するため、時間が経過しても電流が減衰しません。(むしろ、時間経過に伴い電流値が増加していくケースもあります。)
そのほか、水トリー中での放電によるパルス状の電流が漏れ電流に重畳して観測されます。これを電流キック現象といいます。
② 交流損失電流法

導体とシース間に交流電圧を印加して、交流電圧と同相の電流を損失電流として抽出し、電流波形の形状から絶縁状態を調査する方法を交流損失電流法といいます。
水トリーが成長するほど、上記の電流波形に歪が見られるようになります。具体的には第3次高調波成分の大きさが水トリー数と、基本波との位相差が水トリー長さと相間関係にあるため、歪みから分離した第3次高調波成分を解析することで、CVケーブルの水トリーの進行状態を推定することができます。
③ 耐電圧法

耐電圧法は水トリー劣化ケーブルのスクリーニングをするための方法で、通常使用する電圧よりも高い交流電圧をケーブル線路に印加します。
スクリーニングしたい劣化レベルに応じて電圧や周波数 (商用周波、超低周波、可変周波) を選定し、電圧変動の有無・大きさや、部分放電開始電圧・消滅電圧を測定します。
④ 残留電荷法

導体とシース間に直流電圧を長時間印加すると、水トリーに電荷が保持されます。その後、交流電圧を印加することでその保持が緩和され、緩和時の交流電圧と同相の電流ピークの減衰から絶縁状態を調査する方法を残留電荷法といいます。
上記の電流ピークの減衰が確認される交流電圧値と水トリーの長さに相間関係があり、印加する交流電圧を複数値に振り分けることにより、CVケーブルの水トリーの進行状態を推定することができます。
解答
(1) 水トリーの発生要因と特徴
絶縁体中に侵入した水と異物やボイド、突起などに加わる局部的な高電界とが相乗作用し、トリー (樹枝) 状の欠陥が発生・進展する現象を水トリーという。水トリーの内部は健全部分に比べ導電率が非常に大きく電界は低くなる。このため、水トリーが発生しても部分放電は観測されないため検知しにくい。
特に、水トリー先端の電界の強さの大きい部分から電気トリーが発生した時は短時間で絶縁体の絶縁破壊を招きやすく、水トリーが発生したCVケーブルでは誘電正接 (\(\tan δ\)) や直流漏れ電流が増大するといった特徴がある。
(2) 水トリー劣化診断技術
a. 損失電流法
絶縁体に流れる充電電流のうち、印加された電圧と同位相の電流成分 (損失電流) を抽出して、この損失電流中の第三調波成分から絶縁劣化診断する。
b. 残留電荷法
CVケーブルに直流電圧を荷電して設置した後、水トリー劣化部の蓄積電荷を交流電圧を印加することによって放出させる。このことで、水トリー劣化が発生した部分の蓄積電荷の放出状況が分かるので劣化診断できる。
c. 耐電圧法
常時電圧より高い電圧をCVケーブルに荷電し、耐えるかどうかを確認する。振るい分けする劣化のレベルに応じ、試験電圧や種類 (商用周波、超低周波、可変周波) を選定する。
d. 直流漏れ電流測定
CVケーブルの導体と遮へい層間に直流電圧を印加し、検出される漏れ電流の値や漏れ電流の時間変化を測定し、その値や形状から劣化状況を判定する。


コメント