問題
配電線のループ系統に関して,次の問に答えよ。
異なる配電用変圧器に接続されているこう長 1 km の三相高圧配電線 A と B の末端に開閉器が設置されている。開閉器を投入しループ系統にした場合,下記(1)~(3)の設問に答えよ。
(1) 図1の系統において,開閉器投入後の A 配電線と B 配電線の送り出し電流の大きさを求めよ。
なお,配電用変電所から末端負荷に向かう電流の向きを正とする。
また,配電系統の条件を下記に示す。
・配電用変圧器 (1B,2B) の送り出し電圧は,6 600 V とする。
・配電用変圧器の送り出し電圧は,開閉器投入前後で変化しない。
・配電用変圧器 (1B,2B) のインピーダンスは,無視できる。
・開閉器投入前の A 配電線,B 配電線の送り出しのそれぞれの電圧と電流の位相差は小さく,零としてよい。
・負荷は全てそれぞれの配電線の末端に接続されている。
・負荷電流は,開閉器投入前後で変化しない。
・A 配電線のインピーダンス:\(\dot{Z}_A\) [Ω/km] ,B 配電線のインピーダンス:\(\dot{Z}_B\) [Ω/km] ,\(\dot{Z}_A = \dot{Z}_B = \dot{Z}\) [Ω/km]

(2) 小問(1)において,図2の系統のように送り出し電圧が異なる場合,開閉器投入後の A 配電線と B 配電線の送り出し電流の大きさを求めよ。
なお,小問(1)からの配電系統の条件の違いを下記に示す。
・配電用変圧器 (1B,2B) の送り出し電圧は, 1B:6 650 V ,2B:6 600 V とする。
・\(\dot{Z}_A = \dot{Z}_B = \dot{Z} = 0.5+j1.0\) [Ω/km]

(3) 図3の系統において,開閉器投入後の三相短絡電流を求めよ。なお,短絡箇所は開閉器とする。
また,配電系統の条件を下記に示す。
・配電用変圧器 (1B,2B) の送り出し電圧は,6 600 V とする。
・基準容量:6 600 V ,10 MV⋅A ベース
・背後%インピーダンス(抵抗成分は無視): %\(Z_G = 1\) %
・配電用変圧器%インピーダンス(抵抗成分は無視): \(%Z_{T1} = %Z_{T2} = %Z_T = 7.5\) %
・\(\dot{Z}_A = \dot{Z}_B = \dot{Z} = j0.5\) [Ω/km](抵抗成分は無視)

解答のポイント
① ループ電流の計算
連系開閉器投入前後の状態は、投入前:図4-1、投入後:図4-2のようになります。

連系開閉器投入前の状態が図4-1の通りであるとすると、連系開閉器投入前の各負荷の電圧 \(\dot{V}_A\) , \(\dot{V}_B\) は、
\(\dot{V}_A = \dot{V}_S−\dot{Z}_A\dot{I}_A\)
\(\dot{V}_B = \dot{V}_S−\dot{Z}_B\dot{I}_B\)
となり、\(\dot{V}_A\neq\dot{V}_B\) のとき、連系開閉器を投入すると電圧 \(\dot{V}_A\) と \(\dot{V}_B\) が等しくなるようにループ電流が流れます。
このときの電圧を \(\dot{V}\) [V] ,A から B に向かうループ電流が \(\dot{I}_1\) [A] であるとすると、配電系統全体では図4-2に示すように変化し、
\(\dot{V}_A = \dot{V}_S−\dot{Z}_A(\dot{I}_A+\dot{I}_1)\)
\(\dot{V}_B = \dot{V}_S−\dot{Z}_B(\dot{I}_B−\dot{I}_1)\)
すなわち、
\(\dot{V}_S−\dot{Z}_A(\dot{I}_A+\dot{I}_1) = \dot{V}_S−\dot{Z}_B(\dot{I}_B−\dot{I}_1)\)
\(\dot{Z}_A(\dot{I}_A+\dot{I}_1) = \dot{Z}_B(\dot{I}_B−\dot{I}_1)\)
が成立します。
② オーム法から百分率インピーダンス法への変換
基準容量を \(P_n\) [V・A] , 基準電圧を \(V_n\) [V] , 基準電流を \(I_n\) [A] とすると、
%\(Z=\displaystyle\frac{ZI_n}{\displaystyle\frac{V_n}{\sqrt{3}}}×100\) [%] (定義)
\(=\displaystyle\frac{\sqrt{3}ZI_n}{V_n}×100\) [%]
\(=\displaystyle\frac{\sqrt{3}ZV_nI_n}{V_n^2}×100\) [%] 分母・分子に\(V_n\)をかける
\(=\displaystyle\frac{P_nZ}{V_n^2}×100\) [%] (∵\(P_n=\sqrt{3}V_nI_n)\) (重要公式)
となります。

③ 百分率インピーダンスの短絡電流計算
百分率インピーダンスを %\(Z\) [%] とすると、三相短絡電流 \(I_s\) [A] は、基準電流 \(I_n\) [A] を用いて、
\(I_s = \displaystyle\frac{I_n}{%Z}×100\) [A]
でと求められる。
※上式は百分率インピーダンスの定義式等から求めることができますが、試験時には暗記しておいた方が良いと考えます。
解答
(1) 図1の系統において、開閉器投入後の A 配電線と B 配電線の送り出し電流の大きさ
連系開閉器を投入すると、各負荷の電圧が等しくなるようにループ電流が流れるため、このときの各負荷の電圧(相電圧)を \(\dot{V}\) 、 開閉器投入前の A , B 各配電線の送り出し電流を各々 \(\dot{I}_A\) [A] , \(\dot{I}_B\) [A] 、 A から B に向かうループ電流を \(\dot{I}_1\) [A] とすると、配電用変圧器 (1B,2B) の送り出し電圧は、6 600 [V] とどちらも等しいから、これの相電圧を \(\dot{V}_S\) として、
\(\dot{V} = \dot{V}_S−\dot{Z}_A(\dot{I}_A+\dot{I}_1)\)
\(\dot{V} = \dot{V}_S−\dot{Z}_B(\dot{I}_B−\dot{I}_1)\)
すなわち、
\(\dot{V}_S−\dot{Z}_A(\dot{I}_A+\dot{I}_1) = \dot{V}_S−\dot{Z}_B(\dot{I}_B−\dot{I}_1)\)
\(\dot{Z}_A(\dot{I}_A+\dot{I}_1) = \dot{Z}_B(\dot{I}_B−\dot{I}_1)\) ・・・・・①
が成立する。
ここで、問題の条件より \(\dot{Z}_A = \dot{Z}_B = \dot{Z}\) であるから ① より、
\(\dot{Z}(\dot{I}_A+\dot{I}_1) = \dot{Z}(\dot{I}_B−\dot{I}_1)\)
\(I_1=\displaystyle\frac{I_B−I_A}{2}\)
\(=\displaystyle\frac{300−500}{2}\)
\(=-100\) [A]
よって、各配電線の送り出し電流は、
A 配電線:\(I_A+I_1 = 500+(-100) = 400\) [A]
B 配電線:\(I_B−I_1 = 300-(-100) = 400\) [A]
(2) 図2における開閉器投入後の A 配電線と B 配電線の送り出し電流の大きさ
連系開閉器投入後の状態を図2-1に示す。

連系開閉器を投入すると、各負荷の電圧が等しくなるようにループ電流が流れるため、このときの各負荷の相電圧を \(\dot{V’}\) [V] 、 開閉器投入前の A , B 各配電線の送り出し電流を各々 \(\dot{I}_A\) [A] (= \(500\) [A]) , \(\dot{I}_B\) [A] (= \(300\) [A]) 、 A から B に向かうループ電流を \(\dot{I}_1\) [A] とする。
また、配電用変圧器 (1B,2B) の送り出し電圧(相電圧)を配電用変圧器 1B:\(\dot{V}_{S1B}\) [V] , 配電用変圧器 2B:\(\dot{V}_{S2B}\) [V] とすると、
\(\dot{V}_{S1B} = \displaystyle\frac{6 650}{\sqrt{3}}\) [V] \(\dot{V}_{S2B} = \displaystyle\frac{6 600}{\sqrt{3}}\) [V]
より、以上から、
\(\dot{V’} = \dot{V}_{S1B}−\dot{Z}_A(\dot{I}_A+\dot{I}_1) = \displaystyle\frac{6 650}{\sqrt{3}}−\dot{Z}_A(500+\dot{I}_1)\)
\(\dot{V’} = \dot{V}_{S2B}−\dot{Z}_B(\dot{I}_B−\dot{I}_1) = \displaystyle\frac{6 600}{\sqrt{3}}−\dot{Z}_B(300−\dot{I}_1)\)
すなわち、
\(\displaystyle\frac{6 650}{\sqrt{3}}−\dot{Z}_A(500+\dot{I}_1) = \displaystyle\frac{6 600}{\sqrt{3}}−\dot{Z}_B(300−\dot{I}_1)\) ・・・・・②
が成立する。
ここで、問題の条件より \(\dot{Z}_A = \dot{Z}_B = \dot{Z} = 0.5+j1.0\) [Ω/km] であるから ② より、
\(\displaystyle\frac{6 650}{\sqrt{3}}−(0.5+j1.0)(500+\dot{I}_1) = \displaystyle\frac{6 600}{\sqrt{3}}−(0.5+j1.0)(300−\dot{I}_1)\)
\((0.5+j1.0)(500+\dot{I}_1)−(0.5+j1.0)(300−\dot{I}_1) = \displaystyle\frac{6 650}{\sqrt{3}}−\displaystyle\frac{6 600}{\sqrt{3}}\)
\((0.5+j1.0)\{(500+\dot{I}_1)−(300−\dot{I}_1)\} = \displaystyle\frac{50}{\sqrt{3}}\)
\((0.5+j1.0)(200+2\dot{I}_1) \unicode{x2252} 28.868\)
\(200+2\dot{I}_1 = \displaystyle\frac{28.868}{0.5+j1.0}\)
\(= \displaystyle\frac{28.868}{0.5+j1.0}×\displaystyle\frac{0.5−j1.0}{0.5−j1.0}\)
\(= \displaystyle\frac{14.434−j28.868}{0.25+1.0}\)
\(\unicode{x2252} 11.547−j23.094\)
\(2\dot{I}_1 = −200+(11.547−j23.094)\)
\(\unicode{x2252} −188.45−j23.094\)
\(\dot{I}_1 = −94.225−j11.547\)
となる。よって、各配電線の送り出し電流を各々 \(\dot{I’}_A\) [A] , \(\dot{I’}_B\) [A] とすると、
\(\dot{I’}_A=\dot{I}_A+\dot{I}_1\)
\(= 500−94.225−j11.547\)
\(\unicode{x2252} 405.78−j11.547\)
\(\dot{I’}_B=\dot{I}_B+\dot{I}_1\)
\(= 300−(−94.225−j11.547)\)
\(\unicode{x2252} 394.23+j11.547\)
となるので、その大きさ \(I’_A\) [A] 及び \(I’_B\) [A] は、
\(I’_A = \sqrt{405.78^2+11.547^2}\)
\(\unicode{x2252} 405.94\) → \(406\) [A]
\(I’_B = \sqrt{394.23^2+11.547^2}\)
\(\unicode{x2252} 394.40\) → \(394\) [A]
と求められる。
(3) 図3の系統における開閉器投入後の三相短絡電流
配電線の百分率インピーダンス \(%Z_A = %Z_B =%Z\) [%] は、長さが 1 km であるから、
\(%Z=\displaystyle\frac{P_nZ}{V_n^2}×100\)
\(=\displaystyle\frac{10×10^6×0.5}{6 600^2}×100\)
\(\unicode{x2252} 11.478\) [%]
となるので、短絡点からみた百分率インピーダンス \(%Z_s\) [%] は、
\(%Z_s = %Z_G + \displaystyle\frac{(%Z_{T1}+%Z_A)(%Z_{T2}+%Z_B)}{(%Z_{T1}+%Z_A)+(%Z_{T2}+%Z_B)}\)
\(= %Z_G + \displaystyle\frac{(%Z_T+%Z)(%Z_T+%Z)}{2(%Z_T+%Z)}\)
\(= %Z_G + \displaystyle\frac{%Z_T+%Z}{2}\)
\(= 1 + \displaystyle\frac{7.5+11.478}{2}\)
\(=10.489\) [%]
となる。また、基準電流 \(I_n\) [A] は、
\(I_n = \displaystyle\frac{P_n}{\sqrt{3}V_n}\)
\(= \displaystyle\frac{10×10^6}{\sqrt{3}×6 600}\)
\(\unicode{x2252} 874.77\) [A]
なので、三相短絡電流 \(I_s\) [A] は、
\(I_s = \displaystyle\frac{100I_n}{%Z_s}\)
\(= \displaystyle\frac{100×874.77}{10.489}\)
\(\unicode{x2252} 8 339.9\) → \(8340\) [A]
と求められる。


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