【電験2種過去問解説:機械・制御<R6 問2>】単相変圧器の無負荷試験と短絡試験に関する計算問題

電験

問題

定格容量 10 kV⋅A ,定格一次電圧 2 000 V ,定格二次電圧 110 V ,定格周波数 60 Hz の単相変圧器があり,試験結果は次のとおりであった。

 無負荷試験  無負荷損: \(P_0 = 200\) W
        無負荷電流: \(I_0 = 0.26\) A
 短絡試験   インピーダンス電圧: \(V_{1s} = 100\) V
        一次電流: \(I_{1s} = 5\) A
        インピーダンスワット: \(P_s = 400\) W

この変圧器について次の問に答えよ。

(1) 図に示す一次換算の簡易等価回路の回路定数を求めよ。

(2) 百分率抵抗降下 \(p\) [%] ,百分率リアクタンス降下 \(q\) [%] を求めよ。

(3) 遅れ力率 \(80\) % ,全負荷における電圧の変動率 \(ε\) [%] を求めよ。

(4) 遅れ力率 \(80\) % ,\(\displaystyle\frac{1}{2}\) 負荷における電圧の変動率 \(ε′\) [%] を求めよ。

ただし,定格負荷時の力率 \(\cos ⁡ϕ\) における電圧の変動率 \(ε\) [%] は,百分率抵抗降下を \(p\) [%] ,百分率リアクタンス降下を \(q\) [%] とすれば,次式で表せるものとする。

  \(ε = p\cos ⁡ϕ + q\sin⁡ ϕ\) [%]

解答のポイント

① 変圧器の無負荷試験励磁アドミタンスが求められる
変圧器の無負荷試験は一次側を開放して、二次側に定格電圧を加える試験です。巻線のインピーダンスは励磁回路に比べてはるかに小さいため、二次巻線のインピーダンスは無視できます。したがって、測定された電流が励磁電流を示し、電力が鉄損を示します。測定される電力と電流から、励磁コンダクタンス \(⁡g_0\) [S] 及び励磁サセプタンス \(⁡b_0\) [S] を求めることができます。
(二次側に定格電圧を加えるのが一般的ですが、二次側開放で一次側に定格電圧を加えても同様に求められます。)

② 変圧器の短絡試験一次巻線と二次巻線を合わせたインピーダンスが求められる
変圧器の短絡試験は二次側を短絡して、一次側に定格電流を流す試験です。励磁回路のインピーダンスは巻線のインピーダンスに比べればはるかに大きく、励磁電流 \(⁡I_0\) は一次側定格電流 \(⁡I_{1n}\) に比べてはるかに小さいため励磁回路は無視できます。 したがって、測定された電圧がインピーダンス電圧を示し、電力が銅損 (インピーダンスワット) を示します。測定される電力と電流から、一次側換算の巻線抵抗 \(⁡R=r_1+a^2r_2\) [Ω] 及び漏れリアクタンス \(⁡X=x_1+a^2x_2\) [Ω] 求めることができます。

③ オーム法から百分率インピーダンス法への変換
基準容量を \(P_n\) [V・A] , 基準電圧を \(V_n\) [V] , 基準電流を \(I_n\) [A] とすると、\(Z\) [Ω] の百分率インピーダンス (パーセントインピーダンス) %\(Z\) [%] は,

  %\(Z=\displaystyle\frac{ZI_n}{V_n}×100\) [%] (定義)

    \(=\displaystyle\frac{ZV_nI_n}{V_n^2}×100\) [%]  分母・分子に\(V_n\)をかける

     \(=\displaystyle\frac{P_nZ}{V_n^2}×100\) [%] (∵\(P_n=V_nI_n\)) (重要公式)

となります。

④ 百分率抵抗降下 \(p\) と百分率リアクタンス降下 \(q\) 
変圧器の一次二次を合算した一次側換算の抵抗成分\(R = r_1+a^2r_2\) , 一次二次を合算した一次側換算のリアクタンス成分\(X = x_1+a^2x_2\) とし、定格一次電圧\(V_{1n}\) [V] , 定格一次電流\(I_{1n}\) [A] とすると、百分率抵抗降下 \(p\) [%] 及び百分率リアクタンス降下 \(q\) [%] は、

  \(p=\displaystyle\frac{RI_{1n}}{V_{1n}}×100\) [%]

  \(q=\displaystyle\frac{XI_{1n}}{V_{1n}}×100\) [%]

となります。

⑤ 電圧変動率 \(ε\)
定格二次電圧 \(V_{2n}\) [V] に対する無負荷時の二次側端子電圧 \(V_{20}\) [V] と定格負荷接続時の電圧 \(V_{2n}\) [V] の差 \((V_{20}−V_{2n})\) の比を百分率で表したものを電圧変動率といい、記号 \(ε\) [%] で表します。
このとき、電圧変動率 \(ε\) は、

  \(ε=\displaystyle\frac{V_{20}−V_{2n}}{V_{2n}}×100\) [%]

となります。

定格負荷(遅れ力率 \(\cos θ\) )を接続したときの変圧器のベクトル図は下図のように描くことができ、電圧変動率 \(ε\) [%] は④の \(p\) ,\(q\) を用いると、

  \(ε=\displaystyle\frac{V_{20}−V_{2n}}{V_{2n}}×100\)

   \(\simeq p\cos θ + q\sin θ + \displaystyle\frac{1}{200}(q\cos θ − p\sin θ)^2\)

と近似することができ、\(\dot{V}_{20}\) と \(\dot{V}_{2n}\) の位相差が小さく、\(ε\) が4 %以下の場合には、

  \(ε\simeq p\cos θ + q\sin θ\)

と近似することができます。

解答

(1) 一次換算の簡易等価回路の回路定数
無負荷試験時には励磁回路のみに電流が流れると考えればよい。問題図の等価回路は一次側に定格電圧 \(V_{1n} =\) 2 000 [V] を加えた時の試験回路であるから、励磁コンダクタンス \(g_0\) [S] は、

  \(P_0 = g_0{V_{1n}}^2\)

  \(g_0 = \displaystyle\frac{P_0}{{V_{1n}}^2}\)

   \(= \displaystyle\frac{200}{2000^2}\)

   \(= 5.00 × 10^{-5}\) [S]

と求められる。また、励磁アドミタンス \(Y_0\) [S] は、

  \(Y_0 = \displaystyle\frac{I_0}{V_{1n}}\)

   \(= \displaystyle\frac{0.26}{2000}\)

   \(= 1.3 × 10^{-4}\) [S]

となるので、励磁サセプタンス \(b_0\) [S] は、

  \(b_0 = \sqrt{{Y_0}^2 − {g_0}^2}\)

   \(=\sqrt{(1.3 × 10^{-4})^2 − (5.00 × 10^{-5})^2}\)

   \(= 1.2 × 10^{-4}\) [S]

と求められる。

また、短絡試験時には励磁回路の電流は十分に小さいと考えられるため、短絡試験の結果より一次換算全巻線抵抗 \(R\) [Ω] は、

  \(P_s = R{I_{1s}}^2\)

  \(R = \displaystyle\frac{P_s}{{I_{1s}}^2}\)

   \(= \displaystyle\frac{400}{5^2}\)

   \(= 16\) [Ω]

と求められる。また、一次二次の合成したインピーダンス \(Z\) [Ω] は、

  \(Z = \displaystyle\frac{V_{1s}}{I_{1s}}\)

   \(= \displaystyle\frac{100}{5}\)

   \(= 20\) [Ω]

となるので、一次換算全漏れリアクタンス \(X\) [Ω] は、

  \(X = \sqrt{Z^2 − R^2}\)

   \(=\sqrt{20^2 − 16^2}\)

   \(= 12\) [Ω]

と求められる。

(2) 百分率抵抗降下 \(p\) [%] , 百分率リアクタンス降下 \(q\) [%]
定格容量 \(P_n =\) 10 [kV・A] , 一次定格電圧 \(V_{1n} =\) 2 000[V] より、一次定格電流 \(I_{1n}\) [A] は、

  \(I_{1n} = \displaystyle\frac{P_{n}}{V_{1n}}\)

   \(= \displaystyle\frac{10 × 10^3}{2000}\)

   \(= 5\) [A]

となるので、百分率抵抗降下 \(p\) [%] 及び百分率リアクタンス降下 \(q\) [%] は、

  \(p=\displaystyle\frac{RI_{1n}}{V_{1n}}×100\)

   \(= \displaystyle\frac{16 × 5}{2000}×100\)

   \(= 4\) [%]

  \(q=\displaystyle\frac{XI_{1n}}{V_{1n}}×100\)

   \(= \displaystyle\frac{12 × 5}{2000}×100\)

   \(= 3\) [%]

と求められる。

(3) 遅れ力率 80 % , 全負荷における電圧の変動率 \(ε\) [%]
\(\cos φ = 0.8\) より \(\sin φ\) は、

  \(\sin φ = \sqrt{1 − \cos^2 φ}\)

     \(=\sqrt{1 − 0.8^2}\)

     \(= 0.6\)

となるので、電圧変動率 \(ε\) [%] は、

  \(ε = p\cos φ + q\sin φ\)
   \(= 4 × 0.8 + 3 × 0.6\)
   \(= 5.0\) [%]

と求められる。

(4) 遅れ力率 80 % , \(\displaystyle\frac{1}{2}\) 負荷における電圧の変動率 \(ε’\) [%]
\(\displaystyle\frac{1}{2}\) 負荷の時は、負荷電流が全負荷の時の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) となるので、比例する百分率抵抗降下 \(p\) と百分率リアクタンス降下 \(q\) が\(\displaystyle\frac{1}{2}\) となる。したがって、電圧変動率 \(ε’\) [%] は、

  \(ε’ = \displaystyle\frac{1}{2}p\cos φ + \displaystyle\frac{1}{2}q\sin φ\)

   \(= \displaystyle\frac{1}{2} × 4 × 0.8 + \displaystyle\frac{1}{2} × 3 × 0.6\)

   \(= 2.5\) [%]

と求められる。




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